踏ん張り切れなかったチェルシーとこじ開けたアーセナル

ロンドンダービーはアーセナルに軍配

日本時間2022年11月7日に行われたロンドンダービーはアーセナルが0-1で勝利を収めた。

前半からボールを握り自慢のポゼッション攻撃を全開でチェルシーゴールへと襲い掛かったアーセナル。序盤こそ優勢にゲームを進めるもチェルシーもチーム全体でブロックを敷きアーセナルに引き出されないように調節。特にアーセナルのストロングでもある左サイドではベテランのアスピリクエタが数的不利をうまくさばいた。

またチェルシーはハイラインを引くアーセナルのCB陣の裏のスペースをうまく狙うためロングボールを多用した。またジンチェンコがインサイドに入り込むためその裏もスターリングをはじめアタッカーが狙い始めるとゴールへと近づく。しかし決定的なチャンスは作れず前半を0-0で折り返す。

 

後半に入ると前半、優位性を作られたアーセナルの左サイドに対してスターリングのポジショニングを調整したチェルシー。前半と引き続きハイプレスをかけるアーセナルに対してシンプルなロングボールで手数をかけずに攻め込む姿勢はこのゲームのプランを感じさせた。アーセナルもボールこそ握れるもののビッグチャンスは作れておらず勝負は交代枠を切り攻めに転じようとしたチェルシー次第になりそうだと思われた60分。コーナーキックからニアのボールをクリアし損ねCBのガブリエウが押し込みガナーズが待望の先制点を奪取。

その後はアーセナルが少しバランスを見て間延びをしないように立ち振る舞いスペースがない中での戦いを余儀なくされたチェルシーは思うように攻撃できず試合はそのまま終了。アーセナルは首位を守る大きな一勝を挙げチェルシーは直近リーグ4試合勝ちなしの2連敗を喫した。

 

すべてのプランが崩壊したCKからの失点

ポッター監督はこの試合で明確にプランを練っていた。それはボール保持で戦わないことだ。彼はブライトンで素晴らしいポジショナルサッカーを体現した指揮官だがそれは練度を必要とするため就任2か月足らずでは不可能である。そのためポッターはある程度ポゼッションを捨てロングボールを蹴る戦術を選択。特に相手左SBのジンチェンコとハイラインを敷く両CBの裏を突くように指示していたはずだ。また守備時にはハイプレスをかけずCBからトーマスへのけん制をしつつブロックを敷く戦いを選択した。その結果チームはピンチこそあれ60分までは失点することなく踏ん張っていた。そしてポッターは60分ベンチからブロジャとギャラガーを呼んだ。アーセナルが点を取るために焦り前に出てきた裏を抜群のスピードを持つブロジャで一発を狙う。またそれによってDFラインを押し下げ運動量と守備強度の強いギャラガーを前で使い、点を取りに勝負に出ようと動いたのだ。しかしそのプランは崩れ去る。ブロジャ、ギャラガー交代直前のCKでまさかの失点。それもイージーなクリアミスでだ。これによってアーセナルは全体で後退。ブロジャは自らが抜け出すスペースを失い、ギャラガーのカウンタープレスもはまることなく交代が裏目に出てしまった。点を取りに行こうもボールを引き出し自分たちで崩す形を持っていないチェルシーは1点を追う立場にも関わらずシュートすら打てない歯がゆい展開となってしまった。そして無情にもタイムアップ。アルテタは感情を爆発させサポーターと喜びを分かち合った。一方のチェルシーは2連敗。上位に食らいつくためにも落とせない一線を落とし7位へと後退した。

 

際立っていたトーマス・パーティの安定感

スタッツを見ても決してガナーズが全てを支配できていたわけではない。枠内シュートは2本とあまり決定機は作らせてはもらえなかった。そしてチェルシーのシンプルなロングボール戦術は一定以上アーセナルDF陣を混乱に陥らせていたことは確かだろう。しかし自分たちのスタイルを貫きセットプレーでこじ開けたアーセナルの勝負強さは見事だった。そしてトーマスパーティーの存在だ。前半からパスコースをふさがれることは多かったもののうまくポジショニングを取りながらデュエルでも抜群の強さを発揮。球離れの良さと危機察知能力を思う存分に発揮しチームの勝利に貢献した。またセカンドボールへのリアクションもよく今日もヤングガナーズの屋台骨を支えた。

 

足りなかった攻撃の精度

チェルシーもシュートはたった5本。枠内は1本で後半に関しては枠内シュートはゼロだ。おそらくある程度チャンスが少ないゲームになることは想定した戦術だった。しかし現状のメンバーでは少ないチャンスでは決定機すら作れないということも露呈した。ハヴァーツはうまくボールを呼び込み受け取るまでの動きはよかったものの肝心のバイタルエリアではトーマスやサリバを前に何もできず貧弱でスターリングもジンチェンコという本職ではない相手であったものの攻撃で違いを生むことはできず、オーバメヤンも古巣との対戦であったものの守備への切り替えも遅く、ホワイトへの無意味なタックルでイエローをもらうなど攻撃陣が精彩を欠いた。逆に低い位置で先発したマウントはホワイトにしっかりとチェックを行いながら2度3度と追いなおす守備や精度の高いロングキックを見せた。しかし彼も攻撃で違いを生むことはなかった。

 

勿論アーセナルは流れの中から得点することこそできなかったものの後半、攻勢に出てきたチェルシーの攻撃を難なくシャットアウトし守備でも能力が高いことを証明した。また何より強豪のライバルをアウェーで打ち負かし首位を守ったことはとても大きく意味のある勝利であったといっていいだろう。

チェルシーとしてはなんとか守り最悪、勝ち点一でも連敗は避けたかったはずのゲームだ。精神的なショックは大きいだろう。しかしポッターの政権は始まったばかりでありけが人も多く抱えるため今は辛抱の時期だろう。このゲームは一つのセットプレーが全てを分けてしまった残酷なものではあったが両チーム共にプランがはっきりと見えレベルの高い試合だったことは間違いない。

 

クマノミ